KADOKAWA Group
NEW ものがたり

藤ダリオ最新作「パーフェクト・セキュリティ」先行ためし読み連載 第1回


『絶体絶命ゲーム』が圧倒的人気の藤ダリオさん最新作、その名も『パーフェクト・セキュリティ』! タイトルは「カンペキ✨なボディガード」っていうイミ。依頼された相手を、あらゆる悪者たちから、絶対に守りぬく――それが「PS(パーフェクト・セキュリティ)」だ。
最強の少女・美月と無敵の少年・快星の2人が、東京中を走りまわるバディアクション! いますぐチェック!!
(公開期限:2025年8月31日(日)23:59まで)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

1 彼女は止められない!

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 雑居ビルの屋上、大きな瞳の黒髪の少年が双眼鏡で、原宿駅から出てくる人を見ている。

 平日の昼間なのに、原宿駅は人であふれている。

 学生、会社員、フリーター、芸能人のほか、海外からの観光客もたくさんいる。

「……その制服で原宿にくるなんて、目立ちすぎだよ」

 少年がつぶやいた。

 双眼鏡で見ている先には、金色のラインに金色のボタンの白い制服を着た、ロングヘアーの少女がいる。

 彼女の名前は、平松美月。

 駅から出てきた美月は、足ばやに竹下通りにむかう。

「人ごみは苦手だけど、しょうがないな……」

 少年は双眼鏡から目をはなすと、屋上から出ていく。



 美月は、竹下通りをすたすた歩いていた。

ブルブルブル……

 ポケットにいれたスマホが振動している。

「あぁ、まただ……」

 美月は、ポケットからスマホを出す。

 ディスプレイに、『SP』と表示されている。

『SP』は『スペシャル・パンケーキ』の略でも、『シーフード・ピザ』の略でもない。

 これは『セキュリティ・ポリス』の略で、警視庁警備部警護課所属の警察官のことだ。

 数分前から、何回もかかってきていた。

 美月が学校を抜けだしたことに、気づかれたのだ。

「わたしにだって、プライベートが必要よ!」

 美月はそう言うと、スマホの電源をオフにする。

ドン!

 スマホに気をとられていた美月は、前からきた茶髪の男の腕にぶつかった。

「ごめんなさい」

 美月は、早口であやまった。

「あぁ、痛ってぇなぁ!」

 茶髪の男は、ぶつかった腕をさすりながら大きな声を出した。

「大丈夫ですか? そんなに強くぶつかってないと思うけど……?」

 美月が声をかけると、茶髪の男はにやりと笑う。

「その制服って、私立慶学院だよな」

 美月の通う私立慶学院は、学力と体力がトップクラスで、親の家柄や職業も考慮され、すべてが一流だと判断されなければ入学できない、せまき門の名門校だ。

「だから、なんですか?」

 警戒した美月に、茶髪の男はからかうようにきく。

「こんな時間に、学校を抜けだしてきたのかな?」

「そんなこと、関係ないでしょう」



 美月はそう答えて、歩いていこうとする。

「なぁ、待てよ。ゲームセンターでもいこうぜ」

 茶髪の男は、美月の前にまわりこむ。

 瞬間、美月はすばやく体を反転させ、茶髪の男のうしろにまわりこむ。

 茶髪の男は、目の前にいた美月が消えてぽかんとしている。

 その間に、美月は走っていく。

 人通りの少ない裏通りを、美月は歩いていた。

 待ちあわせの噴水の前にやってくると、やさしい笑顔の男子が顔をあげた。

「——美月」

 美月とその少年——熊谷慎也は幼なじみで、去年までは同じ初等部だった。

「慎也、ひさしぶり」

 美月がそっけなく言うと、慎也は申し訳なさそうな顔をする。

「こんなところに呼びだして、ごめんね」

「ううん、いいよ。わたしも慎也に話があったんだ」

「ぼくに話って、なにかな?」

「慎也、いきなり転校したでしょう。それって、もしかしてわたしの母さんのせいかな?」

 美月の質問に、慎也は苦笑いで答える。

「そうじゃないよ。……でも、そうとも言えるかな」

「どういうこと?」

「美月のママとぼくのパパは、敵同士だろう。それが、子どもが同じ学校でなかよくしているのは、都合がわるいみたいなんだ」

「それって、やっぱり母さんのせいね」

 美月は、うつむき気味に言った。

「でも、それはもういいんだ。……それより、ここにきたことは、だれにも言ってない?」

 慎也が、確認するようにきいた。

「言ってないわ。だれかに話したら、確実に母さんの耳に入る。慎也と会うと知ったら、絶対に止められる」

「そうか、そうだよな」

「それで、用件はなに? メールには『大切な話がある』って書いてあったけど」

 美月がきくと、慎也は思いつめたような顔で口をひらく。

「それなんだけど……。美月のママが、3日後の首相指名選挙に立候補してるのは知ってるよね」

「もちろん」

「それなんだけど、立候補を取りさげるように、美月から説得してくれないかな」

 慎也の話に、美月がまゆをひそめる。

「それを言うために、わたしを呼びだしたの?」

「うん、そうなんだ。……パパが言うには、このままだと美月も美月のママも危険だって」

 慎也は、真剣な顔で言った。

「わたしも、母さんに総理大臣になんてなってもらいたくない。でも、ダメ。母さんは、わたしの話なんて、きいてくれないわ」

 美月は、きっぱり言った。

「あぁ、美月はわかってないな。本当に、危険がせまっているんだよ」

 慎也は、いらいらした口調で言った。

「心配してくれるのはうれしいけど、母さんはやると決めたことは、なにがあってもやめないわ。……良くもわるくも、それがわたしの母なの」

「そうか。わかったよ。……ぼくは警告したからね」

 慎也はそれだけ言うと、そそくさと帰っていく。

「あっ、ちょっと」

 美月が声をかけるが、慎也はふりむきもしない。

「……なによ、どういうこと?」

 つぶやいた美月は、ため息をついた。

 いつの間にか、あたりには、だれもいない。

「これって……」

 美月は、いそいで帰ろうとするが……。

 派手なシャツの太った男が、建物のかげから出てくる。

「平松美月ちゃんだよね。ちょっと、おじさんときてもらえるかな?」

 太った男が、低い声で言った。

「いやよ」

 美月は言い捨てると、体を反転させて走りだす。

 しかし、前からは顔色のわるいやせた男がやってくる。

「残念だったな。こっちも通れねぇぞ」

 やせた男が、両手をひろげて言った。

「……いいわよ。わたし、正面突破が好きなの!」

 美月は、前をふさぐやせた男に、猛然と突進していく。

「なに!」

 やせた男が一瞬、ひるんだ。

 美月はそのすきに、手前の路地に飛びこんだ。

 やせた男と太った男は、一瞬、顔を見あわせたあと、あわてて美月を追いかける。

 美月は、建物と建物のすきまを、けんめいに駆けていく。

「わたしの足をなめないでよ!」

 美月は、走るスピードをあげる。

 おとなの男たちには、幅のせまい路地は走りにくい。

 美月は走りながら、ポケットのスマホを手にする。

「こういうときにかぎって、SPは電話してこないのよね」

 スマホのディスプレイを見た美月は、電源をオフにしたことを思いだした。

「あぁ、そうだった」

 スマホの電源を入れなおしている余裕はない。

 やせた男が、美月にせまってきている。

「こうなったら、逃げきるだけね」

 美月は、全速力で走っていく。

 すると、建物のすきまから、ふいに広い通りに出た。

 明治通りだ。

 広い車道にはたくさんの車が走っていて、通り沿いにはおしゃれなビルが建ちならび、学生や観光客が行き交っている。

 美月がちらりとふりかえると、やせた男が猛然と追いかけてくる。

「あぁ、しつこいな……」

 美月が前を見ると、通りのむこう側に、紺の地味なスーツの背の高い男女が目に入る。

「やった、あの2人!」

 美月は、スーツの2人にむかって手をふる。

「原島さん、友里恵さん、こっちよ!」

 しかし、通りのむこう側にいる2人は、気づかない。

「どうすればいいの……?」

 美月が迷っていると、ふいに肩をつかまれる。

「手こずらせるなよ!」

 美月の肩をつかんだのは、追いかけてきた、やせた男だ。

「だれか、たすけ……」

 助けを求めようとした美月の口を、やせた男がおさえる。

リンリン! リンリンリンリン!

 そのとき、どこからかベルの鳴り響く音がきこえてきた。

 あたりにいた人が、ベルの音に目をむける。

 1台の自転車が、すさまじいスピードでこちらに走ってくる。

「どいてください! ぼく、いそいでるんです!」

 自転車に乗った少年が、叫んでいる。

 雑居ビルの屋上にいた大きな瞳の黒髪の少年だ。

「はぁ……?」

 美月をつかまえていたやせた男が、突進してくる自転車を見て首をかしげる。

 少年の自転車は、行き交う人をたくみにかわして、猛スピードでつっこんでくる。

「うわぁ……!」

ド———ン!

 自転車は、やせた男に激突する。

 その衝撃で、やせた男は美月からはなれて、派手にひっくり返る。

「ぐおっ!」

 少年は自転車に乗ったまま、すまなそうな顔で言う。

「おじさん、ごめんなさい。——でも、子どもに乱暴するなんて、最低だね」

プップー!

ファァァァァァ!

ブ———、ブ———ッ、ブ————ッ!

 明治通りを走っていた車が、クラクションを鳴らしている。

 美月はなにが起きたのかわからずに、立ちつくしている。

 通りのむこうにいたスーツの男女が、明治通りを走行中の車の間を横断してくる。

「原島さん、友里恵さん、ここよ」

 われに返った美月が、2人に手をふる。

「おい、逃げるぞ」

 遅れて路地から出てきた、太った男が、倒れているやせた男に声をかける。

 2人はあわてて、逃げていく。

「美月さん、けがはありませんか?」

 スーツの男が、まわりを警戒しながら言った。

「遅い! あと少しでつれていかれるところじゃない!」

 美月がぶぜんとして言うと、スーツの女がむっとした顔で言いかえす。

「わたしたちをまいておいて、よくそんなことが言えたわね」

「根岸くん、やめなさい!」

 スーツの男が、スーツの女に注意する。

「中学生に逃げられて、よく言いかえせるわね!」

 美月が言うと、スーツの女が苦虫を噛みつぶしたような顔をする。

「あれ、さっきの自転車の少年は?」

 スーツの男が、まわりを見る。

 自転車の少年は、いつの間にかいなくなっている。

「あなたたち、ちょっと話をきかせてもらえるかな?」

 声をかけてきたのは、巡回中の警察官だ。

 すると、スーツの男と女が、美月の前に立ちふさがり、胸ポケットから手帳を出した。

「ごくろうさまです。わたしは、こういうものです」

 見せたのは、警察手帳だ。

「警視庁警備部警護課の原島浩太です」

「同じく、警護課の根岸友里恵です」

 警察手帳を見た警官は、背筋を伸ばして原島と友里恵に敬礼する。

「これは失礼しました」

 警官は、かしこまって言った。



File.2につづく

6月11日発売の本『パーフェクト・セキュリティ 彼は無敵のボディガード』では、もっとたくさんのイラストが見られるよ。ぜひ本でもチェックしてね!


この記事をシェアする

ページトップへ戻る